本記事は将来の予測であり、実際の制度変更を保証するものではありません。また、特定の職種を否定するものではありません。これからも専門職として活躍し続けるために、制度や世界の動きを冷静に共有すること及び、キャリア提案を目的としています。



今、静かに、しかし確実に、ケアマネジャーを取り巻く環境が変化しています。セルフプランニングの推進、他職種によるケースマネジメントの実施、AIの活用――これらの波は「まさか自分の仕事が」という考えに囚われている間に、想像以上のスピードで押し寄せています。
ケアマネジャーの取り巻く環境
介護保険制度の要として位置づけられてきたケアマネジャー。しかし、その役割の必要性に疑問を投げかける議論が、制度内部から湧き上がっています。厚生労働省の検討会では「ケアプランは本人や家族でも作れる」という指摘がなされ、国際的には看護師やソーシャルワーカーがケースマネジメントを担う事例が報告されています。これらは単なる議論ではなく、制度設計の方向性にも関わりうる重要な問いかけとして議論されています。
「現状は変わらない」と思う心理
介護保険制度という巨大なシステムの中で、自身の職務が永続的に必要とされるという前提に立つことは、リスクの可能性があります。「制度に守られているから安心」「専門職だから需要はある」――こうした思考が、適切な危機察知を妨げているのです。

実際、多くの専門職が技術革新や制度変更によって消滅したり大幅に縮小したりしてきました。銀行窓口業務はATMに、旅行代理店はネット予約に置き換わりました。「専門職だから安泰」という保証はとは言い切れない時代になりつつあります。
制度内部から湧く不要論
厚生労働省の「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会」の議事録には、ケアマネジャーの存在意義を揺るがす重要な指摘が記載されています。

「ケアプラン作成が誰でもできるという批判:一部には『ケアプランは本人や家族でも作れる』という意見がある。専門職だからこそという証明が弱いと、専門性の在り方が生まれやすい」という記述です。
これは単なる批判ではなく、制度設計者側からの本質的な問いかけです。もしケアプランの作成が専門資格を持たない本人や家族でも可能であるならば、公費を投じて専門職に依頼する価値があるのか、という疑問が生じます。
社会保障費の増大が続く中、この議論は「不要論」として具体的な政策に結びつく可能性を秘めています。ケアマネジャーの配置義務の緩和や、居宅介護支援の有料化といった議論が現実味を帯びてくるのです。
参考:厚生労働省 第3回介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会 議事録
変化の兆候
制度の微妙な変化は既に始まっています。近年の介護報酬改定では、一人当たりの担当件数上限引き上げの議論や、AIを活用した業務効率化の推奨がなされています。
これらは「より少ないケアマネジャーでより多くの利用者を担当する」方向への誘導と解釈できます。政策立案者の視点では、ケアマネジャーの数を増やすのではなく効率化することが志向されているのです。

また、障害福祉分野では既にセルフプランの割合が地域によっては3割近くに上るなど、利用者の主体的な計画作成が進んでいます。この流れが介護分野に波及することは十分に考えられます。
セルフプランニングの影響とは
利用者自身や家族がケアプランを作成する「セルフプランニング」の推進は、ケアマネジャーの業務に影響を及ぼす可能性を秘めています。制度上は当初から認められていたこの仕組みが、今後本格的に推進されれば、ケアマネジャーの役割は根本から問い直される可能性も出てきます。
ケアプランは誰のものか
ケアプランは本来、利用者自身の人生設計の一部です。専門職が作成することが当然視されてきましたが、これは利用者の自己決定権という観点から見直されつつあります。
介護保険法の理念は「自立支援」です。専門職に全てを委ねるのではなく、利用者自身が主体的に自分の生活を設計することが本来の姿だという考え方が強まっています。
セルフプランニングは、この理念を実現する手段として位置づけられています。利用者が自分の生活を自分で決める権利を尊重するという、極めて正当な理由に基づいているのです。
この流れは、ケアマネジャーの価値が「プラン作成」という事務手続きではなく、より高度な専門性にあることを証明する必要性を突きつけています。
デジタル化が後押しする

以前は専門知識がなければ作成困難だったケアプランも、今ではインターネット上に様々な情報やテンプレートが存在します。サービス事業所の検索も容易になり、技術的なハードルは急速に下がっています。
AIを活用したケアプラン作成支援ツールの開発も進んでいます。NTTデータ経営研究所が実施した調査研究では、AIが過去のデータから最適なサービス組み合わせを提案する実証実験が行われました。
これらのツールが一般利用者向けに提供されるようになれば、セルフプランニングはさらに現実的な選択肢となります。「専門知識がないと作れない」という前提自体が少なくとも一部の場面では揺らぎつつあります。
デジタル化は、ケアマネジャーの事務的・定型的な業務を代替する可能性を示しています。これを脅威と捉えるか、本来の対人援助に集中できる機会と捉えるかが、今後の分かれ道となります。
参考:NTTデータ経営研究所 AIを活用したケアプラン作成支援の実用化に向けた調査研究
専門性の再定義が求められる

セルフプランニングの議論は、ケアマネジャーに「真の専門性とは何か」を問い直しています。プラン作成という形式的な作業に専門性があるのではなく、その背後にある深い洞察にこそ価値があるはずです。
複雑な課題を抱えるケースにおける多職種連携の調整、高齢者虐待や認知症進行時の倫理的な意思決定支援、家族間の複雑な感情の調整――これらの非定型業務にこそ、人間的な専門性が求められます。
しかし現状の業務が事務作業や形式的な手続きに偏重しているとすれば、セルフプランニングの推進は重要なシグナルとなります。AIやテンプレートで代替できる部分が業務の大半を占めていると仮定するならば、専門職としての証明は弱い可能性もあります。

真の専門性を発揮し証明することが、今後のケアマネジャーに課せられた課題です。

国際的視点から見る他職種への統合
日本ではケアマネジャーが独占的に担ってきたケースマネジメント。しかし国際的に見ると、この機能は特定の職種に限定されるものではありません。看護師、ソーシャルワーカー、さらには地域のボランティアまで、多様な担い手によって実施されているのです。
諸外国のケースマネジメント

カナダのケベック州における高齢者在宅ケアの研究では、ケースマネジャーを看護師やソーシャルワーカーが担っている実態が報告されています。彼らは病院からの早期退院要請への対応や、外部サービス提供者との連携において様々な課題に直面しながらも、ケースマネジメント機能を遂行しています。
イギリスでは「社会的処方」において、リンクワーカーと呼ばれる職種が地域資源と住民を結びつける役割を担っています。オランダではウェルフェアコーチが生活支援を行っています。参考:ILC Japan 諸外国における支援を必要とする住民と地域の多様な支援のあり方に関する調査研究報告書
これらの事例が示すのは、ケースマネジメントが「特定の資格」ではなく「特定の機能」であるという事実です。複雑なニーズを持つ利用者に必要なサービスを調整し統合するという機能は、広範な専門的訓練を受けた職種によって担うことが可能なのです。
参考:PMC – Tensions experienced by case managers working in home care for older adults in Quebec
日本国内でも進む役割の重複

日本国内においても、国際的な動向と軌を一にする変化が見られます。退院支援看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)が、退院後の生活を見据えたケースマネジメント的な役割を担う事例が増加しています。
看護師は医療的視点から健康管理とケア調整を行い、ソーシャルワーカーは経済的・社会的な課題解決や制度外資源の活用に専門性を発揮しています。これらはケアマネジャーの役割と重なり合う部分が多いのです。
実際、病院からの退院支援において、ケアマネジャーとMSWや退院支援看護師との連携が課題となっているケースは少なくありません。役割の境界が曖昧で、重複や空白が生じているという指摘もあります。
この状況は、ケアマネジャーの役割が他の専門職によって代替可能であることを示唆しています。ケアマネジャーの専門性を「介護保険制度」という枠組みを超えて証明することが求められているのです。
参考:順天堂大学医療看護研究 退院支援看護師の実践におけるチームマネジメントのプロセス
ケアマネだけの特権ではない

国際的な研究が明らかにしているのは、ケースマネジメントが特定の職種の独占業務ではないという現実です。むしろ、多職種が協働してケースマネジメント機能を担うモデルの方が、より効果的である可能性さえ示唆されています。
日本のケアマネジャーは、介護保険制度という特殊な環境の中で発展してきた職種です。しかし制度が変われば、その独占的地位も変わる可能性があります。
他の専門職がケアマネジメント技法を学べば、役割を分担したり、一部機能を担うことも考えられます。看護師は医療的知識で、ソーシャルワーカーは権利擁護や社会資源活用で、それぞれケアマネジャーを上回る専門性を持っているからです。
ケアマネジャーの価値は、これらの専門職の知識を統合し調整する「コーディネーター」としての役割にあるとされてきました。しかしその調整能力自体も、他の専門職のチームマネジメント能力やリーダーシップによって代替される可能性を否定できないのです。
AIとテクノロジーの進化
AIの進化は、ケアマネジャーの業務を大きく変える可能性を秘めています。定型的な業務が自動化されることで、本来の対人援助に集中できるという明るい側面がある一方、AIが代替できる業務が現在の大半を占めているという現実も突きつけられています。
AI活用の実証実験が進む
経済産業省や自治体、民間企業が連携し、AIを活用したケアプラン作成支援の実証実験が進められてきました。これらの実験では、AIが過去のデータから最適なサービス組み合わせを提案したり、利用者の状態変化を予測したりする機能が検証されています。
ケアプラン作成のプロセスは、利用者の基本情報、認定情報、サービス利用履歴といった構造化されたデータに基づいて行われる部分が多いです。この定型的な作業をAIが代替することで、業務負担を大幅に軽減できる可能性があります。
横浜市では介護分野におけるオープンイノベーションによる実証実験が行われ、AI活用の有効性が報告されています。こうした取り組みは全国に広がりつつあります。
AIの活用は「効率化」という名目で推進されていますが、裏を返せば、効率化できる部分が現在のケアマネジャー業務の大半を占めているということでもあるのです。
参考:横浜市 介護分野におけるオープンイノベーションによる課題解決に向けた実証実験
代替後に残る人間の仕事
AIが代替できるのは、あくまで情報処理と定型的な判断です。しかしケアマネジメントの本質は、利用者の人生観や価値観に寄り添うこと、家族間の複雑な感情の調整、予期せぬ事態への柔軟な対応といった、人間的な洞察力と共感力を必要とする部分にあります。
AIがプラン作成の効率化を実現すればするほど、ケアマネジャーの専門職としての証明は、より高度な非定型業務、すなわちAIには不可能な人間的な価値に限定されることになります。
もし日常業務の大部分がAIによって代替可能であるならば、それは現在の制度設計がケアマネジャーの真の専門性を引き出せていないという構造的な問題を示しています。
この変化を事務作業からの解放と捉え、真の対人援助に特化する機会とできるかどうかが、今後のキャリアを左右する鍵となります。AIとの共存を前提としたスキルの再構築が求められているのです。
キャリアの複線化という戦略
この静かなる変化を直視するならば、取るべき道は明らかです。それは「ケアマネジャー」という資格や職種に依存しないキャリアの拡張戦略、すなわち「ケアマネ+α」戦略の構築です。転職や副業を通じて、自らのスキルをより広い市場で通用するものへと高めることが求められています。

資格に依存しないスキル
ケアマネジャーの業務で培われるスキルは、異業種でも通用するスキルの宝庫です。複雑な課題の構造化と解決能力は、コンサルティングやプロジェクトマネジメントで活かせます。

多職種・多機関との調整・交渉能力は、営業、人事、チームリーダー、ファシリテーターとして高く評価されます。傾聴・共感に基づく高度なコミュニケーション能力は、キャリアコンサルティングやカウンセリング、教育の分野で求められます。
制度・法令の理解と文書作成能力は、事務、法務、専門学校講師、WEBライターとして活用できます。これらのスキルを「介護の仕事」として矮小化するのではなく、高度な対人支援・問題解決スキルとして自己認識することが重要です。
自己ブランディングを行い、自分の市場価値を正しく認識することが、キャリア戦略の第一歩となります。
参考:Share Japan 介護支援専門員の就職先と異業種への転職の可能性を紹介
転職という選択肢

ケアマネジャーの経験を活かした転職先として、特に有望なのはIT業界やコンサルティング業界です。介護・医療系SaaS企業では、現場の課題を熟知しているケアマネジャーが、システム開発の要件定義やユーザーサポート、セールスで活躍しています。
未経験者向けのサポート体制が整っている企業も増えており、異業種転職の成功事例も増加しています。介護現場の実務経験は、他の職種にはないリアリティと専門性を提供できる強みとなります。
コンサルティング業界では、複雑な制度を理解し多角的な視点から問題解決を図る能力が高く評価されます。経営コンサルタントや業務改善コンサルタントとして、特に医療・介護分野に特化したファームで活躍できる可能性があります。
転職は将来への投資です。ケアマネジャーという枠を超えたキャリアを築くことで、より広い可能性が開けるのです。
参考:コトラ 前職の経験を活かす!業界別・コンサル転職成功事例まとめ
副業で専門性を収益化
すぐに転職するのはリスクが高いと感じる場合、副業から始めるのが現実的です。本業の傍らで副業を行うことは、将来的な転職への布石となるだけでなく、専門性を市場で試す絶好の機会となります。

介護資格スクールの講師や非常勤教員は、時給が1,200円から3,000円程度と高く、主に土日や夜間に行われるため本業との両立がしやすい選択肢です。介護保険制度やケアマネジメントの知識を教える仕事は、自己のスキルアップにもつながります。
認定調査員は、要介護認定の調査業務でケアマネジャーの知識を直接活かせます。時間的な融通も利きやすく、報酬も一般的な介護職員を上回る水準にあります。
専門分野のWEBライターやコラムニストとして、介護保険制度や高齢者福祉に関する情報発信を行うことも有効です。自身の経験に基づいたコンテンツは読者からの信頼を得やすく、副収入源として確立しやすいでしょう。
参考:キラッと介護 ケアマネジャーは副業できる?経験を活かせる仕事や働くときの注意点を解説
次の一歩とは

ケアマネジャーとしての経験は貴重な資産です。それを活かす道は介護保険の枠内だけに限りません。転職や副業を通じて新しいキャリアを切り開くことは、人生の選択肢を広げ、より充実した職業人生につながります。
セミナーに参加する、新しい資格の勉強を始める、副業の可能性を探る、異業種の人と話をする――どんな小さなことでもいいのです。
【免責事項と注意喚起】 本記事は「一般的な情報や仮説」と「筆者の個人的な経験・感想」を含みます。収入や法令の扱いについては、必要に応じ専門家とご相談下さい。







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