「※本記事は厚生労働省の標準的な指針に基づきますが、実際の運用は各自治体(指定権者)の判断を優先してください」


「ケアマネの副業」の記事一覧
ある日、事務所の郵便受けに「運営指導実施予定のご通知」という封筒が届いたとき、どんな気持ちになるでしょうか。「まずい、あの書類どこだっけ……」と胸がざわつく方も多いはずです。でも、ご安心ください。

運営指導(旧:実地指導)は、「事業所を取り締まるため」ではなく、「質の高いケアを守るため」に行われる制度です。仕組みをしっかり理解し、日頃の業務を整理しておけば、過度に恐れる必要はありませんが、一定の緊張感をもって準備しておくことが大切です。
この記事では、ケアマネジャーの視点から、指導・監査の仕組み、確認されるポイント、準備すべき書類、そして「監査」に至るリスクの回避策まで、わかりやすくお伝えします。(※一般的な情報+筆者の個人的な経験・感想を含みます/法的助言ではありません)

最新データが示す厳しい現実

令和6年度の指導状況を正確に把握することが、対策の第一歩です。
厚生労働省が公表した令和6年度の統計では、全国の運営指導実施件数は5万424件を記録しました。コロナ禍で急減して以降、最多の件数です。また、全事業所に占める指導実施率は全国平均で16.2%。つまり、統計上の全国平均では、約6〜7事業所に1か所の割合で実施されています。
一方で、昨年度に指定取消や効力停止などの行政処分を受けた事業所・施設は158件。前年比19件増という厳しい結果でもありました。

■ 令和6年度 行政処分事由の内訳(出典:厚生労働省 令和6年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料)
| 処分事由 | 件数 | 割合(概算) |
| 不正請求 | 82件 | 約51.9% |
| 法令違反 | 44件 | 約27.8% |
| 人格尊重義務違反(虐待等) | 41件 | 約25.9% |
| 虚偽答弁 | 25件 | 約15.8% |
| 人員基準違反 | 21件 | 約13.3% |
| 運営基準違反 | 18件 | 約11.4% |
※複数事由が重複するケースあり。合計が100%を超える場合があります。
| 💡 ケアマネとして知っておきたいこと 行政処分の最大要因は「不正請求(約52%)」です。しかし、「単純な事務ミス」と「意図的な不正」は区別されます。重要なのは、日頃から算定根拠を記録しておくことです。 |
3つの指導の種類と違い

「運営指導」「集団指導」「監査」の3つは、目的も内容もまったく異なります。混同しないよう整理しましょう。
集団指導:まずここから始まる
集団指導は、行政が複数の事業所を一堂に集めて、法令改正や制度変更について説明するものです。実施頻度は自治体の運用により異なりますが、定期的に実施されるのが一般的です。最新の案内は自治体通知をご確認ください。
運営指導:本丸はここ
運営指導(旧:実地指導)とは、行政が現地または通信にて書類等を確認し、適正な運営がされているかを点検する指導です。指定の有効期間(6年)に少なくとも1回は原則とされています。(自治体の方針や事業所の状況により、実施頻度が異なる場合があります。)

2022年に「実地指導」から「運営指導」へと名称が変更されました。これは、オンラインでの確認が可能になったためです。内容によっては訪問なしで実施されることもあります。

| 📋 運営指導の3つの観点 ①介護サービスの実施状況指導(ケアマネジメント・プロセスの適否) ②最低基準等運営体制指導(人員・設備・運営基準の遵守状況) ③報酬請求指導(介護報酬の適正算定・請求状況) |
監査:最も厳しい段階

監査は、運営指導や通報などで不正・違反が疑われる場合に切り替わる、強制的な調査です。担当者に出頭を求めたり、現地に立ち入って検査を実施します。
その結果、内容に応じて「改善勧告」「業務停止」「指定取消」などの行政処分が下されます。指定取消になると、5年間は新たな指定を受けることができません。
| ⚠️ 監査に切り替わる4つのリスク ①不正請求の疑い ②高齢者虐待などの人格尊重義務違反 ③虚偽の報告・答弁 ④著しい人員・運営基準違反。この4点が確認された場合、事案の内容によっては監査に切り替わることがあります(切替の判断・時期は所管自治体の運用によります)。 |
居宅介護支援の指導で見られる項目
ケアマネが特に気をつけるべきポイントを、3つの観点から整理します。書類整備の参考にしてください。
ケアマネジメント・プロセスの確認

運営指導の核心は「ケアマネジメントが適切なプロセスで行われているか」です。以下が特に指摘されやすいポイントです。
- アセスメントは利用者の居宅を訪問し、面接して行っているか(記録必須)
- サービス担当者会議を開催し、専門的意見の記録があるか
- ケアプランへの利用者の文書による同意(署名)を得ているか
- モニタリングは月1回以上、訪問・面接の上で記録しているか
- 支援経過記録に一貫した内容が記載されているか
現場経験から感じてきたことですが、「アセスメントをした」「担当者会議を開いた」という事実があっても、記録がない場合、事実確認ができず、未実施と判断されるリスクが非常に高いです。書類は利用者の人生を守るための証です。

運営体制に関する確認

人員基準の充足状況と、近年義務化された新しい基準への対応状況がポイントです。
- ケアマネジャーの員数は満たしているか
- 管理者は常勤専従か(兼務の場合は適切な体制か)
- 専門員証の有効期限が切れていないか
- BCP(業務継続計画)を策定し、研修・訓練を実施しているか
- 虐待防止委員会の開催記録・研修実施記録があるか
- 感染症対策の指針・委員会・研修の記録が整備されているか
- ハラスメント防止方針の文書化はできているか
| 🔴 要注意:未実施減算の対象になりやすい項目 「高齢者虐待防止措置未実施減算」は、虐待防止委員会・指針・研修のいずれかが欠けていると適用されます。令和6年度改定以降、確認が特に厳しくなっています。 |
報酬請求の適正確認

加算を正しく算定できているか、そのエビデンス(根拠書類)が揃っているかが問われます。
- 入院時情報連携加算・退院退所加算を算定する場合、医療機関との連携記録があるか
- 特定事業所集中減算の計算が正しく行われているか
- 運営基準減算(モニタリング未実施等)の自己申告は適切に行われているか
- 利用者の認定有効期限を管理し、期限切れで請求していないか
運営指導前に準備すべき書類リスト【居宅介護支援の標準確認文書】

運営指導の前に確認すべき「標準確認文書」を一覧で整理しました。事前の自己点検にご活用ください。
■ 標準確認文書 一覧(出典:厚生労働省 確認文書リスト)
| 分類 | 確認書類 |
| 契約・説明関係 | 重要事項説明書(同意署名付き)、利用契約書、個人情報利用同意書 |
| ケアマネジメント記録 | アセスメント結果記録、サービス担当者会議記録、居宅サービス計画(ケアプラン)、モニタリング記録、支援経過記録、個別サービス計画 |
| 人員・勤務管理 | 勤務体制一覧表・勤務実績表、タイムカード等の勤怠記録、資格証の写し、管理者の雇用形態・勤怠記録 |
| 運営体制書類 | 運営規程、研修計画・実績記録、BCP策定文書・訓練記録、虐待防止指針・委員会議事録・研修記録、感染症対策指針・委員会記録・研修記録、ハラスメント防止方針文書 |
| 苦情・事故対応 | 苦情受付簿、苦情対応記録、事故記録・損害賠償状況記録、市区町村等への連絡記録 |
| 広告・情報公開 | パンフレット・チラシ、Web広告のコピー |
参考:厚生労働省 確認文書リスト https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001281524.pdf
自己点検票の使い方と対策ポイント

自己点検票は、運営指導の前に事業所が自ら行う事前チェックシートです。使い方を理解して、万全の体制で臨みましょう。
各都道府県・市区町村の指定権者は、ホームページ上で自己点検票を公開しています。東京都の場合は「東京都福祉局 居宅サービス事業所等自己点検票(指定居宅介護支援事業)」として公開されています。
自己点検票を使ってチェックするときは、「あると思っている」ではなく「実際に書類を取り出して確認する」ことが重要です。実際の運営指導では、書類が手元にないと「確認できない」と判断されてしまいます。

| 📌 自己点検の4つのポイント ①書類の実在を目で確認する(頭の中の記憶に頼らない) ②マニュアル・規程の最終更新日を確認する(法改正への対応漏れに注意) ③加算ごとに算定根拠書類が揃っているか確認する ④電磁的記録(システム入力)の場合、当日スムーズに提示できるか確認する |
指摘されやすい見落とし事例

経験上、多くの現場で見受けられる「うっかりミス」をまとめました。
- 重要事項説明書に「利用者の署名・日付」が抜けている
- モニタリング記録の記載はあるが「訪問した事実の記録」がない
- 担当者会議の記録に「出席者名・意見の要旨」が記載されていない
- BCP(業務継続計画)は策定したが「訓練・研修の実施記録」がない
- 介護認定の有効期限が切れているのに気付かずサービスを継続していた
- 加算の算定要件が変更されたのに、従前の基準で請求を続けていた

| 💬 筆者より ある事業所では、完璧だと思っていた書類に1箇所の日付漏れがあり、そこから全件確認へと発展したそうです。「大丈夫だろう」という思い込みが最大のリスクです。小さな確認の積み重ねが、事業所と利用者を守ります。 |
指導後の対応と改善報告書
運営指導で不備を指摘された場合も、適切に対応すれば問題ありません。冷静に、誠実に対処しましょう。
運営指導の結果、書類の不備や基準への不適合が指摘された場合、行政から「改善勧告」や「改善報告書の提出」を求められることがあります。

改善報告書では、①指摘内容の確認、②原因の特定、③具体的な改善策と実施時期、④再発防止策、の4点を明確に記載することが求められます。
ここで大切なのは、「叱られた」という気持ちより、「専門家の目線からのアドバイスをいただいた」という姿勢です。指導は、制度の専門家から運営上の改善点を示してもらえる機会とも捉えられますが、あくまで行政による公式な指導であることも意識して対応する必要があります。

| 📎 参考:改善報告書の基本的な構成 ①指摘事項の概要 ②発生原因の分析 ③具体的な改善措置とその完了期限 ④再発防止のための体制整備(責任者・確認方法の明記) |
ICT・介護ソフトで業務を効率化

書類管理の負担を減らし、本来の「利用者支援」に集中するための選択肢として、介護ソフトの活用があります。
厚生労働省も推進する「電磁的記録の活用」は、運営指導対策の観点からも有効です。介護ソフトを活用することで、書類管理や加算算定のチェックをシステム的に支援できる場合があります。(ただし、最終的な確認責任は事業所にあり、運用体制によって効果は異なります。)
運営指導の当日、「画面でご確認いただけますか?」とスムーズに対応できる体制も検討が必要です。
- ケアプラン・アセスメント・モニタリングの一元管理が可能
- 加算の算定条件アラート機能で算定漏れ・誤請求を防止
- 勤怠記録のデジタル化で勤務実績の整合性を担保
- BCP文書・研修記録のクラウド保管でいつでも提示可能

| 📱 介護ソフトの活用提案 「カイポケ」「ワイズマン」「ほのぼの」などの介護ソフトは、書類作成の自動化・電磁的記録の整理に活用できます。導入コストと業務軽減効果を比較した上で、事業所に合ったツールを選ぶことをおすすめします。(本記事で挙げたソフト名は一例であり、特定製品を推奨するものではありません。導入にあたっては、各事業所の規模・予算・既存システムとの整合性を踏まえて検討してください。) |
まとめ

最後に、この記事で伝えたいことを整理します。運営指導を「怖いもの」から「成長の機会」に変えていきましょう。
令和6年度の統計が示すとおり、運営指導の件数は回復傾向にあり、指定取消件数も増加しています。しかしその多くは、長期的な不備の放置や意図的な不正が原因です。
日頃から適切なケアマネジメントを実践し、その記録をきちんと残していれば、運営指導は、多くの場合、改善点を確認する場として機能します。結果によっては厳しい指摘や処分につながる可能性もあるため、リスクを理解したうえで『自事業所を客観的に見直す機会』として活用することが重要です。
| ✅ 今すぐできる5つの対策 ①自己点検票を取り寄せ、実際に書類を確認する ②BCP・虐待防止・感染症対策の記録を最新化する ③加算ごとに算定根拠書類を整理する ④モニタリング・担当者会議の記録の一貫性を確認する ⑤電子管理の場合は、当日の提示準備を確認する |
私はケアマネとして長年現場に立ってきました。書類に追われる日々の中で、「これって本当に利用者さんのためになっているのかな?」と思ったこともあります。でも、記録があるからこそ、連携できる。根拠があるからこそ、守れる。そう感じてきました。
書類は事務作業ではなく、利用者の人生を守る「証」です。その意味を胸に、一緒に質の高いケアを続けていきましょう。
【参考情報・出典】
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001281524.pdf
- 厚生労働省「令和6年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001669791.pdf
- 東京都福祉局「居宅介護支援事業 自己点検票」https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/1kyotaku05
- 厚生労働省 介護サービス事業者の業務管理体制 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/service/index.html
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、筆者の個人的な経験・見解を含みます。法的助言・行政指導の確定的な解釈を示すものではありません。各自治体でローカルルールが存在する場合があるため、詳細は所管の自治体担当窓口にご確認ください。










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