介護保険の特例サービス新類型と包括報酬(定額制)とは?第134回介護保険部会で示された要点と対象地域の条件

職場環境改善

令和8年3月執筆 ※一般的な情報+筆者の個人的な経験・感想を含みます/医学的助言ではありません

「このまま、うちの事業所は続けていけるのだろうか——」

雪深い山道を1時間かけて訪問し、サービス提供はわずか30分。ガソリン代すら出ないような現実が…。一部の地域では、移動コストが報酬を上回り、採算確保が極めて困難なケースも報告されています。

「中山間地域・人口減少地域で介護事業を続けることが難しくなっている中、2027年度からの第10期介護保険事業計画では、『特例介護サービスの新類型』や『包括報酬(定額制)』といった新しい仕組みが検討されています。」

令和8年3月9日、第134回社会保障審議会介護保険部会(厚生労働省)で、その現実にようやく本腰を入れた制度改革の方向性が示されました。2027年度からスタートする第10期介護保険事業計画に盛り込まれる予定の「特例介護サービスの新類型」と「包括報酬(定額制)」というのがポイントです。

この記事では、ケアマネジャー(介護支援専門員)の視点も交えながら、制度の内容・背景・活用のポイントを解説します。難しい制度用語には都度噛み砕いた説明を加えますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

📌 この記事でわかること:①特例介護サービスの新類型の概要 ②包括報酬のメリット・デメリット ③対象地域の選定の仕組み ④ケアマネが活かせる実践ポイント

そもそも、なぜ今「特例」が必要なのか

2040年問題と中山間地域の危機。数字が示す厳しい現実を、まず共有させてください。

日本の総人口は減少しているにもかかわらず、85歳以上の後期高齢者人口は2040年(令和22年)にかけてさらに増加します。

特に問題が深刻なのが、農村部・山間部・離島といった「中山間・人口減少地域」です。介護を必要とする高齢者は一定数いるのに、それを支える働き手が急速に減っています。

課題具体的な内容
人手不足求人を出しても1年以上応募がゼロという事業所も珍しくない
移動コスト山間部では1件の訪問に往復1〜2時間かかることも
収支悪化出来高制では移動時間分の収入がなく、採算が取れない
事業所閉鎖サービス空白地域が拡大し、利用者が行き場を失う

厚労省の資料(第134回介護保険部会・資料1-1)によれば、2040年を見据えた計画の在り方として「中山間・人口減少地域における柔軟な対応」が最重要テーマのひとつに挙げられています。

💬 ケアマネ目線で言うと… 担当している利用者さんが「また事業所が撤退した」と泣きながら話してくれたとき、本当に胸が痛かった。制度が現場に追いついていない、という感覚は毎日のようにあります。

第134回部会が示した「3類型」とは

地域を3つに分け、それぞれに合った計画づくりを求める新しい枠組みです。

昨年末(令和7年12月)の審議会で、厚労省は全国を以下の3つの地域類型に分ける方針を正式に決定しました。

地域類型主な特徴・課題
中山間・人口減少地域人口流出・高齢化率の高さ・事業所の採算困難・特例の活用が必要
大都市部高齢者数は多いが移動コスト低・多様な事業者が参入・競争原理が機能
一般市等上記2類型の中間・地域の実情に応じた柔軟な対応が求められる

この3類型は、2027年度スタートの第10期介護保険事業計画の基本指針に反映される予定です。

特に「中山間・人口減少地域」については、通常の基準では事業継続が難しい実情を踏まえ、特例として柔軟な仕組みを活用できるようにする、という方向性が示されました。

📎 出典:厚生労働省「第134回社会保障審議会介護保険部会 資料1-1(基本指針について)」令和8年3月9日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71296.html

「特例介護サービスの新類型」とは何か

人員基準の弾力化など、地域が生き残るための「攻めの制度」です。

特例介護サービスの新類型は、「中山間・人口減少地域」を主な対象として創設が検討されているサービス区分です。

現行の介護保険サービスは、全国一律の人員配置基準・設備基準・運営基準が定められています。しかし人口減少地域では、この「全国一律」がかえって事業継続の足かせになっているという声が長年あがっていました。

【人員配置基準の弾力化】

今回の新類型で特に注目される点のひとつが、人員配置基準の弾力化です。具体的には以下のような内容が議論・検討されています(令和8年3月時点の方向性)。

📋 弾力化が検討されている主な項目
・管理者の常勤専従要件の緩和(他業務との兼務を認める方向) ・夜勤を含む人員数の最低基準の見直し ・ICT活用を前提とした人員配置の最適化 ・協働化(複数事業所での人材シェア)による基準充足の認容

「人員が足りないから基準違反」という状況に追い詰められている事業所にとっては、精神的にも経営的にも、大きな安堵材料になる可能性があります。

💬 ケアマネ目線で言うと… 人員基準の緩和は「手を抜いていい」ということでは絶対にない。ICTで記録を効率化した分、利用者さんとお茶を飲む時間を増やす——そういう使い方をしてほしいと、個人的には感じています。

【ICT活用が「必須条件」になるのか?】

現時点では、ICT活用は「推奨」にとどまる可能性が高いとされています(令和8年3月時点の審議会の議論では、推奨にとどまる方向性が示されていますが、正式決定ではありません)。ただし、生産性向上の取り組みを通じて人員基準の弾力化を受けやすくなる、という流れは確かに見えています。

「ICTを導入しないと特例が使えない」というハードルになるか否かは、今後の審議会(介護給付費分科会)での詳細設計に委ねられています。動向に注目が必要です。

🔧 ICT導入を検討している事業者は「介護生産性向上総合相談センター」(都道府県設置)への相談が、ひとつの選択肢として挙げられています。

「包括報酬(定額制)」の仕組みを解説

月単位の定額払いに切り替えることで、移動コストが高い地域ほど経営が安定する可能性があります(地域・運用による差あり)。

【出来高制との根本的な違い】

現在の多くの介護サービスは「出来高制」です。提供したサービス1回ごとに報酬が発生します。利用者へのキャンセルがあればその日の収入はゼロ、移動時間がいくら長くてもサービス時間分しか報酬が出ない——これが事業者を苦しめている構造です。

比較項目出来高制(現行)包括報酬(定額制)
報酬の発生タイミングサービス提供1回ごと月単位の定額払い
移動コストの扱い収入に反映されにくい月額に組み込みやすい
キャンセルのリスク収入がゼロになる月額は確保される
提供量のコントロール多く提供するほど収入増必要量の提供で安定
サービスの質管理提供回数で確認しやすい内容・アセスメントが重要

出来高制の場合、移動時間が長い中山間地域では、たとえ熱心に動いても採算が取れないケースが多発します。包括報酬に切り替えると、月単位で一定の収入が確保されるため、経営の安定性が増す可能性があります。(ただし、実際の影響は地域の利用者数やサービス構成、報酬単価の設定などによって大きく異なるため、自事業所の状況を踏まえた個別の検討が不可欠です。」)

⚠️ ただし包括報酬は「サービスを提供しなくても報酬が出る」と誤解されがちです。利用者のニーズを的確にアセスメントし、必要なサービスをしっかり届ける責任は変わりません。あくまで特定の市場調査に基づく傾向として、導入効果には地域・事業所ごとに差があります。

【包括報酬のメリット・デメリット】

メリット内容
✅ 収入の安定化月単位で収入が確保され、キャンセルリスクが軽減される
✅ 移動コストの吸収移動時間が長い地域ほど、定額制のほうが合理的になりやすい
✅ 計画的なサービス提供月単位で訪問スケジュールを組みやすくなる
✅ 職員への安定した給与収入が安定することで採用・定着にプラスになる可能性
デメリット・懸念点内容
❌ サービス量が減るリスク事業所によっては訪問回数を絞る動機が生まれる懸念
❌ 質の担保が難しくなる?提供量ではなく内容・成果で質を測る仕組みが必要になる
❌ アセスメント力の差が出るケアプランの質次第で適切なサービス量が変わる
❌ 導入・移行の手間現行の出来高制から切り替える際の事務的な負担
💬 ケアマネ目線で言うと… 包括報酬で怖いのは「サービスをサボる」事業所が出ることよりも、「アセスメントが雑になる」こと。ケアマネが利用者のニーズをしっかり確認して、事業所と丁寧に連携することが、質の担保につながると感じています。

対象地域の「選定プロセス」はどうなるのか

自治体の意向と都道府県の判断が鍵。今後の焦点は「選定基準」の明確化です。

「自分の地域が対象になるかどうか」——これが最もリアルな疑問だと思います。

現時点(令和8年3月)での厚労省の方針は、以下のように整理されています。

🗺️ 対象地域の選定プロセス(現時点のイメージ)
① 国が「中山間・人口減少地域」の選定基準を今後の法改正・審議会で設定
② 市町村が地域の実情を踏まえて特例の活用を検討・計画に明記
③ 都道府県が広域的な観点から調整・支援
④ 介護給付費分科会で詳細の基準・要件を確定(今後の審議)
⑤ 第10期計画(2027年4月〜)に反映・スタート

選定の基準としては、人口規模、高齢化率、事業所の採算状況、地理的条件(山間部・離島など)などが参考指標として検討されるとみられます。ただし詳細はまだ確定していません。

⚠️ 「やむを得ない場合」「特別な事情がある場合」という文言が自治体ごとに異なる解釈をされてきた歴史があります。厚労省には、基準を明確かつ統一的に示すことを期待したいと個人的には思います。
あなたの事業所は対象になる可能性がある? 5つの確認ポイント
□ 所在地が農山村部・離島など地理的に不便な地域にある
□ 人口が著しく減少しており、高齢化率が高い市町村にある
□ 1件あたりの移動時間が平均30分以上かかっている
□ 人員基準を充足するために管理者が現場に入らざるを得ない状況にある
□ 採算悪化や後継者不足で事業継続に不安を感じている

「協働化・大規模化」という選択肢

一人で抱え込まなくていい。連携・統合が新しい生存戦略になります。

厚労省は今回の基本指針の方向性の中で、介護事業経営の「協働化・大規模化」も推奨しています。具体的には以下のような取り組みが想定されています。

取り組み内容
事務部門の集約複数事業所が記録・請求業務を共同化し、事務コストを削減
人材シェア近隣の複数事業所間で職員を融通し、人員基準を充足
M&A・統合単独経営の限界を認め、他法人と合併・連携して経営基盤を強化
機能特化多機能化せず、得意なサービスに絞り込み生産性を高める

持続可能な体制構築のため、単独経営だけでなく、他法人との連携や協働化が有効な選択肢の一つとして推奨されています。連携や統合は、利用者にとってもサービスが途切れないというメリットがあります。

ケアマネのスキルが生きる場面

特例制度の活用は、ケアマネの調整力があってこそ機能します。

特例介護サービスや包括報酬が導入された場合、ケアマネジャー(介護支援専門員)の役割はより重要になると考えられます。

📝 ケアマネが活かせる具体的な場面
① アセスメント精度の向上:包括報酬では「月に何回訪問が必要か」の根拠がより重要になる
② 事業所との交渉・調整:人員基準の弾力化を活用している事業所との連携方法の工夫
③ 地域ケア会議での発言:対象地域の選定や計画策定の場で現場の声を届ける
④ 利用者・家族への説明:新しいサービス類型の内容をわかりやすく伝える役割
⑤ 自治体窓口との連携:地域の事業所が特例の対象になれるよう、必要情報を収集・共有する

特例制度は「国が与えてくれるもの」ではなく、地域の関係者が連携して「使いこなすもの」です。ケアマネが橋渡し役として積極的に関わることが、地域の介護を守る力につながりやすくなります。

制度活用を進めるための「次の一歩」

難しく考えすぎず、まずは相談窓口に連絡してみることをお勧めします。
制度の全容がまだ固まっていない今の段階でも、準備できることはあります。

🔍 今すぐできる3つのアクション
① 介護生産性向上総合相談センター(各都道府県設置)に相談する    
→ ICT導入・生産性向上・経営改善に関する無料相談が受けられます
② 介護専門の求人サービスを活用し、早期の人材確保に備える    
→ 特例で基準が緩和されても「質の高い人材」の確保は引き続き重要です
③ 近隣の事業所・社会福祉協議会と「顔が見える関係」を作り始める    
→ 協働化の話し合いは、制度の詳細が決まる前から始めておくとスムーズです

特に「介護専門の求人サービス」については、(例:介護職向け転職サイトなど)や、介護ソフトの比較サイトなど、複数の民間サービスが存在します。条件の合う媒体を比較検討することも、ひとつの選択肢として考えられます(※いずれも一例であり、特定サービスの推奨ではありません。利用にあたっては、各サービスの利用規約や評判を個別に確認してください。)。

また、ICT導入については「介護ソフト」の比較サイトや各都道府県の相談センターが情報収集に役立つとされており、補助金の活用ができる場合もあります(詳細は各自治体窓口でご確認ください)。

まとめ

第134回社会保障審議会介護保険部会(令和8年3月9日)で示された方向性を整理すると、以下のようになります。

📌 この記事のまとめ
✅ 第10期計画(2027年〜)では「中山間・人口減少地域」への特例的対応が柱のひとつ
✅ 特例介護サービスの新類型では、人員配置基準の弾力化などが検討されている
✅ 包括報酬(月定額制)は移動コストが高い地域の経営安定に寄与しうる制度
✅ 対象地域の選定基準は今後の法改正・審議会で確定予定
✅ 協働化・大規模化という経営選択肢も同時に推奨されている
✅ ケアマネのアセスメント力と調整力が、制度活用の質を左右する

「地域の介護が失われることは、その地域で暮らし続けることが難しくなるほど大きな影響を与えます。

それほどまでに、介護は地域の生活基盤を支える重要なインフラだと感じています。」この制度の「柔軟化」は、テクノロジーと人の知恵で質を守りながら地域から介護を消さないための、いわば「攻めの生存戦略」です。

制度の詳細が固まる前から、仲間と話し合い、アンテナを張り続けることが、限界集落の介護の「灯り」を守ることにつながると、ケアマネとして確信しています。

【参考資料】
厚生労働省 第134回社会保障審議会介護保険部会(資料1-1) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71296.html 
厚生労働省「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和7年12月25日) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001668454.pdf

本記事は令和8年3月時点の情報に基づき執筆しています。制度の詳細は今後の審議・法改正により変更される場合があります。最新情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。

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